『日記帳』(1925)

初期の江戸川乱歩の作品は暗号モノが多く、デビュー作の「二銭銅貨」からして暗号モノだし、後の名作「孤島の鬼」も宝探し的な暗号解きの楽しさがある。翻案モノだけど「幽麗塔」もそう。。江戸川乱歩の名前の元ネタとなったエドガー・アラン・ポーの「黄金虫」もアルファベットの暗号だったが、暗号というのは実のところ犯罪には使われないんじゃないかと思う。

スパイ活動や資産隠しならまだしも、犯罪者が犯罪計画や犯罪の隠蔽に暗号を使うという状況はあまり考えにくく、小説ではどう使うもんかと江戸川乱歩も云々考えたのだろう、本作「日記帳」と同時期の「算盤が恋を語る話」は超絶に内気な男性が女性に行為を伝えるのに暗号を使うという物語を書いたのである。

最近は芸能人の不倫とかのスキャンダルが多く報道されている。そんな現在において私は作内の内気な男性の思考や行動はキライではないが、さすがにそれじゃあ気持ちは伝わらないよ、と物語であることを忘れてツッコミたく思うのである。

本作は20歳で早世した弟の日記帳を兄が発見して読み出すところから始まる。遠縁の美しい娘の名前を日記帳に発見するが、記されているのは葉書を出した日付のみ。相手からも葉書で返事が来てるから恋する男性なら間髪入れずに返信をすればいいものの、弟は間をあけて他愛もない葉書を出しているのである。

「日記帳」も「算盤が恋を語る話」も内気だけどプライドの高い男を書いている。告白が不発に終わった場合でも「え?何の話?」とトボケられるような、ある意味卑怯な告白方法だと作者も認めているが、弟さんの恋する相手に自分の気持ちを伝える言葉は「葉書を出した日付」が暗号になっていた。8回の葉書の発信によって送られた言葉は「I LOVE YOU」… 気づくかよっ!

だいたい、葉書を送ってそれに返信が返ってきてる時点で相手が好意を持ってないはずがない。それどころか相手は「切手を斜めに貼る」と比較的わかりやすい(当時の流行りらしい)好意の示し方をしてるのに、なんとまあ鈍感なことか。煩悶しながら弟さんは病気で死んでしまうわけです。と、最後の数行でドッキリなどんでん返し。

読み手にツッコませるだけツッコませておいての鮮やかなラスト。うーん、誰も幸せにならないなあ。暗号なんて解かないでいいのかもね、と苦い余韻を持たす作品なのであります。








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