『二癈人』(1924)

江戸川乱歩の「石榴」とか「断崖」と似たテイストの短編。冬の温泉宿、日差しが障子いっぱいに広がって、その中で渋い煎茶とタバコを楽しみながら二人の男が火鉢を囲んで話す光景。この時点でなんかいいよねえ。温泉宿。

でもタイトルは「二癈人」。戦争で傷を負った男と、過去の犯罪で一生を棒に振った主人公。この二人を廃人と言ってるのだろうが、傷を負った男には名誉という慰めがある。それに引き換え…と言ってる方がこの話の語り部である。夢遊病者で意識なく殺人を犯してしまった男。

小さい頃から夢遊病の癖があったようだが、学生時分の下宿で、やれ眠った後に友人の部屋で議論で気焔を吐いたり物を持って帰ってきてしまったり、夜中に徘徊してる姿を目撃されたり、行きつく果てには寝てる間に人を殺してしまった、と。

まあ大正時代?昔ならではの話であり、今なら医学も進んでるだろうし、今なら自分の部屋にwebカメラを仕掛ければいい話。でもこの時代は自分の寝てる顔すら見ることが難しい時代。朝起きて、他人の部屋から持ってきたっぽい品物があれば(あー、またやっちまった)と。殺されたという老人の家から盗まれた株券や債券が自分の部屋から出てきたらどうしようか、と。

完全犯罪を考える時に、自分の犯した犯罪を他人が「オレがやった」と自首して罪を被ってくれればこれ以上ない完全犯罪はないわけで、この作品は推理小説として読み応えがある。まあ、偶然なのか何なのか、ここでこの2人が何故向かい合ってるのかが不自然な印象を受けたが、だからこそ、冬の日の短さの中で、暮れゆく障子越しの日差しで映る主人公の憤怒の表情が見てとれたわけで、

冬の湯治場の日暮れ時に、怒りのあまり震えてる男の表情というのもなかなかホラーで宜しいですな。







ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック