『一枚の切符』(1923)

江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」に続く第二作とされる「一枚の切符」。「二銭銅貨」が日本語を用いた暗号解読の作品だったので純日本製の探偵小説ともてはやされたようだか、何となくこの作品には汽車や博士や切符という、洋風な香りが漂う。

富田博士の邸宅の裏を走る列車に、富田博士の奥さんがひかれて死亡、というのが始まり。名探偵と名高い黒田という刑事が現場の捜査によって黒田博士を犯人と推理する。その推理を左右田という大学生が線路沿いの石の下にあった一枚の切符をもとにその推理をひっくり返す。富田博士は犯人でなく、重い肺病を病んだ富田夫人の自殺である、と。

こう書くと面白そうに思えそうだが、やっぱり大正時代の作品である。文面が仰々しくて読みにくい感がある。後半の手記の部分がその印象を大きくしてると思うが、同じ江戸川乱歩の作品でも初期の作品と後期の作品では読みやすさが異なる。文章の格式というか品格は漂ってくるが、大衆娯楽として確立された後の作品群に比べるとテンポは宜しくない。

そもそもお国の宝である優秀な頭脳の持ち主は、ある程度の浮気や疑惑に縛られるべきではない、という探偵の前提がありそうだ。これは時代なんだろうなあと思う。乱歩の作品は検閲やら差別表現やらで制限されることも多いが、こういう思想的な部分は時代を超えて残る部分である。いやいや、それを責めてるのではなく、

正義とか倫理とかでなく、純粋に知能ゲームを楽しんでいるように見える左右田という大学生はまさに初期の明智小五郎の姿だし、「この切符を石の下ではなく、石のそばで拾ったとしたらどうだ?」とニヤリとする姿は、証拠も推理も見方によってはガラリと意味が変わるという後の傑作「陰獣」に通じるエッセンスである。一度読んだ作品でも年代や時系列を考えて再読すると楽しいものです。









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