『孤島の鬼』 (1929)

石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)という映画。もうタイトルからしてダメなのだが、これが何年かに1度ぐらいのサイクルで名画座に登場したりする。前回は池袋の新文芸座でリバイバル公開され、

皆さまの予想に漏れず私も参加してきたのだが、まさに参加という言葉が似合うぐらいのお祭り騒ぎ。「人間椅子」と書かれたTシャツの御仁を始め、マニアが集いに集い、妙な熱気に包まれていたのが記憶に新しいが、

その映画のベースとなっているのが江戸川乱歩の長編の傑作として名高い『孤島の鬼』である。若い主人公の恋人との死別、密室殺人、名探偵の登場に迫る悪の手の恐怖。そして孤島へ渡っての宝探しと冒険の数々。

まともなプロットがこれだけあるのに、同性愛や人体改造などの(ああ、乱歩っぽい、乱歩っぽい)と思わせるエッセンスが全編に炸裂。初めて読了したのが小学校4年の時だったが、成人して読み返してみると実のところ、

この作品は「恋」や「愛」の要素が強いことに気付くのである。主人公と最初の被害者との幼い恋愛。主人公に対する年上の男性からの恋愛。そして奇妙な双子の片割れに対する主人公の恋愛模様が実にビビットである。

主人公は恋人を殺されたから復讐のつもりで犯人探しをしているのに、その過程で出会う双子の片割れに心を奪われるのは不自然ではないだろうか。当然、結末に向けては決して違和感のないストーリーになっているが、

江戸川乱歩という作家は恋とか愛を描く筆力も絶大で、今のこのご時世でも(あー、そんな感じかも)と思わせるだけの説得力があったりする。主人公の恋に対する葛藤と、それを阻害するものがなくなった時の解放感など、

「さあ、めでたし、めでたし」感は乱歩の作品にしては珍しいほどである。とはいえ、だ。主人公に対する年上の男性の恋愛や、男色に目覚めることになった養母との関係、双子間における恋愛感情など歪んでるものも多く、

そもそもが健常人に恨みを持つ孤島の鬼が繰り広げる放送コードに引っかかる悪行の数々。残酷とか衝撃的なのではなく、放送コードに引っかかる悪行の数々なのだ。だからドラマ化とかは絶対にあり得ない内容である。

先の「江戸川乱歩全集~」も地上波で放映しないのは当然、国内ではDVDにすらなっていない。私なんぞは外国から取り寄せたぐらいである。今でも通じる瑞々しい恋愛の感情表現と、今では絶対に表現できない人物表現。

傑作として認められつつも、胸を張って後世に伝えることが憚れる、実に乱歩らしい一遍なのである。










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